【夜な夜なきこえる、あの声は】文 小池玄一郎

去年の冬。
越してきたてのお隣の猫、勘違いしてウチに来る。
夜中、部屋の前でなおなお「開けろ」と夜鳴く猫。
月日は流れ、さすがの猫も物を覚え、ちゃんと主人のあの子の前で鳴く、少し寂しい夏の夜。

そして秋も深まり主人の泣き声、夜に混じる。

壊れてゆく、生活。

場が、空気が、時間が嘘が、いつの間にかゆるされなくなる。
やさしいふりができなくなる夜、二人には、
どうしようもなさだけが見え透いた。

北風の吹くなか、

あの子はヨソの町へ行く。

誰もいなくなった暗い部屋の前で、
置き去りにされた猫、なおぅと鳴く。


見下ろす光、 冷たい銀河。