【白い風景画】文 小池玄一郎/作詞・作曲 染谷知孝


『203号室の老人は今日も窓から外を眺めていた。
近頃は自分が誰なのかさえおぼつかない そんな老人にとって
外に降り積もる雪もまた、おぼろげな、白い幻でしかないのだろうか。
ふと、
彼はまるで青年のような 鋭く悲痛なまなざしを その なけなしの
皮と肉とになってしまった顔面によみがえらせた。
そして、右手を窓に 窓に向かってかざしている。

聞けば
老人は昔、画家を志してい、その作品はすべて一人の女性にささげられていたという。

2人の別れがいかなるものだったか、それを知る術はない。

わかるのは 老人は以来、絵を描かなくなったということだけだ。

リハビリのために渡した画用紙は全て、白く塗りつぶされていた。
まるで彼の記憶のように。

老人は今、まぎれもない、失い 過ぎ去った、自ら封じた瞬間と向き合っているのかもしれない。

203号室の青年はキャンバスに手をかざす。
幾重にも塗り重ねられた白い風景画。その奥底に沈む記憶を、完全に消し去るために。
白く
白く、、、

203号室の老人は窓に手をかざす。
幾重にも降り積もった白い雪景色。その奥底に沈む記憶を、完全に消し去るために。
白く
白く、、、』


袖なしを着るあの娘の笑み
剥き出しの僕らを包む白い光

梔子の木々 蕾はまだ
固く閉じてすべてを拒む冬の景色

「あなたの笑顔に救われたくはない」

孤独の先の憎しみの数
鮮やかに咲く辛苦の薔薇の胸の印

降り積もる雪に時間は歪み
残る美しさにだけとらわれている人よ

「あなたの笑顔に救われたくはない」
「あなたの笑顔に救われたくはない」

震える手で握る絵筆が閉じ込める
あきらめの未来を輝かな夜明けが白く白く白く塗る

白く白く