【五月のあやかし】文 小池玄一郎

逢魔が時を急ぐ自転車
ペダルを漕いで吐息
次の角を左に曲がって坂を上る
頭ん中先回りして君を思う
影絵になって沈む街並み
夕日の残滓に昏く塗られた君のかお
どんなに目を凝らしても 朧に霞む君のかお
届かない 遠くに近くに 届かない
風を切って、目瞬きもせず、声にならない 今はただ
とりかえしのつかなさだけ 思い知る

漕いで 漕いで漕いで
逢魔が時の君に逢う
おいで おいでおいで
逢魔が時の君似合う

湿った夜風は夏のにおい 宵の口
こうもりの羽音を空想 きっと君に届く夕闇の向こう
飛ぶ虫
飛ぶ虫
輪になって散る死の向こう
君は笑って 戯れる あやかしの少女 おいで
おいでおいで
逢魔が時の君似合う 漕いで 漕いで漕いで

逢魔が時の君に 逢う


※〔逢魔が時〕夕暮れの薄暗くなった時。夕暮れと夜との境界