【コールドナンバー】文 小池玄一郎

眩しい朝
笑う水面をすべる白鳥の群れ
この国は相変わらずおかしいけれど
僕はその中で安住し死にたくない

死にたくない。

白い息を吐いて
鼻の奥にしみる記憶 息を吸って
並べられた机 支配する いいかげんな番号
プルルルル 霜の降りた畑には何が植わっているの
キラキラと 白く輝くそれは 受話器のような
プルルルル

取りたくない。

取ったら

あ、もしもしこちら別に物件の紹介をしてるわけじゃなくてですね少しでも今後のマイホーム
購入のキッカケにして欲しいなと、要らないってアナタねぇ、じゃあ言ってみて下さいよ、何
が要らないんですかねぇ何度でも掛かりますからねこれ、オドシじゃないですよ。だからさっ
さと1回で終わらせましょうよ、じゃあぶっちゃけ、今何歳なんですか僕は今日誕生日で23
になりましたなったけど、こうやって仕事なわけですよ今もアナタぶっちゃけトシいくつなん
ですかなんで教えてくれないんですかじゃあ行きますよ行っても良いんですねそっち行きます
からケンカ売るなら売ればいいじゃないですか買いますよとことん仕事なんですからこっちは
ホント受話器越しに疾駆する血肉のカタマリ闘争本能のタカマリ!!
あまり、
こっちの情報は知らない。
一人暮らしなのを知られたのがイタイ。
住所はまぁ、調べればすぐだよなぁ、家電(イエデン)は。
でもそんなコスト払ってまでここに来るメリットは?
無い。
ただのオドシ。

拉致?
まさか。
ただの、オドシ。ただの。ただの。
でももしかして。

暗澹たる想像力。その、穴。
を、
掘るな。

掘らせるな。



「眩しい、朝」